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其の七、 根知男山 根知谷田圃視察 2007年4月10日 |
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2007年4月10日。
(名)渡邊酒造店の区画整理された田圃は、一枚が約3反。勾配のために1枚ごとに階段状の段々田圃になっています。根知谷全体で約300町歩ほどの広さしかありませんが、その田園風景の中には、ヨーロッパの高級ワインを生産する葡萄畑にも似た雰囲気が漂っています。渡辺社長は、この内約3丁ほどの自社田を耕作しています。
また、根知谷では、東の駒ケ岳(標高2967m)、雨飾山(標高1963m)から日が昇り、南北の山々の陰になることなく、西の日本海に日が沈みます。このため、根知谷の田圃は米作りに必要な長い日照時間と十分な積算温度が確保されます。
更に、山間地の標高の高さゆえに、良質米作りに必要不可欠な昼夜の寒暖の温度差が十分与えられます。酒米づくりの土質にも恵まれており、土壌の性質の良さから、形状の良いタンパク質含有量の少ない良質の酒米が生産されるのです。
土壌、日照時間・日当たり、気温・寒暖の差、水、風通りと、酒造りに欠かせない酒造好適米の産地として、十分すぎるくらいのポテンシャルを秘めている土地だと思います。
その証明として、平成17年には早くも、公的検査機関である日本穀物検定協会により、根知谷の栽培田で生産された五百万石の内、72俵が「特等米」の認定を受けました。もうすぐ5月、山々の新緑と田圃の稲の緑が美しい景観をみせてくれるはずです。
私は、根知谷のテロワールの潜在能力を信じ、渡辺社長の夢と並々ならぬ情熱に共感して、「nechi」ブランドを販売しています。一粒の種籾を地に植えて、酒になるまで一貫して我が子を育てるように慈しんで育てあげる「安心・安全」の品質の確かさと、味わいの確かさとを、地酒を愛するユーザーの皆様にお伝えしていきたいと考えています。
渡辺社長は、根知谷の自然を愛し、土地の恵みを社会に還元しようとしています。土をつくり、土を耕し、種を蒔き稲を育て、収穫し、その米で酒を醸し、全国のユーザーの皆様に楽しんでいただく。そのことは、故郷の根知谷の自然を守ることにも繋がっていると思います。1年のサイクルを根知谷の風土の中で真面目にゆっくりと完結し、美しい自然からの恵みを美味しい酒に仕上げていくことは、大変意義のあることだと思います。
しかし、渡辺社長によると、根知谷の農家の高齢化と共に、後継者不足による農業従事者が減ってきているというお話を聞きました。折角の田圃も今後は不耕作地が増えていくことでしょう。食糧不足の時代がすぐそこまで来ているのに、農業問題は更に解決策の見出せない深刻な状態に陥っているといいます。
こういった現状を以前から危惧されてきた渡辺社長は、1995から志のある農家と契約栽培を始めましたが、それだけでも足りない状況を考えて、2002年から自社栽培を始めました。これにより、安定した原料米の確保、そして今まで以上の米質の向上を目指せる生産体制を構築しています。
また、もともと「よりよい日本酒を造るために」始めた米作りですが、先ほども述べた通り、日本の農業は深刻な事態を向かえつつあります。個々の農家、個々の集団、個々の地域が、自力で生き残っていかなければならない時代がくる。そういう状況の中で、自分のことだけでなく、「将来のために今やらなければならないこと、次代に残すためにやらなければならないこと」に尽力し、根知という地域の一員として、一農家として人生をかけて「米作り」に取り組んでおられます。
こういった真摯な取り組みには、心から感銘を受けます。(詳しくは、根知男山のブログ「農村だより」でご覧頂けますので、興味のある方は是非アクセスして下さい。)
渡辺社長のお話しは、とても興味深い。一枚一枚の田圃の土壌の違い、風の流れ方、害虫の発生具合、陽の当たり具合、温度の違い、耕盤の形状の違いなど。実に様々な違いを把握されています。
最後に、昨年(2006年)建設した乾燥機のある倉庫と種籾から苗を育てる育苗ビニールハウスを見学しました。ほとんどの農家が農協の販売する出来上がった苗を購入する中で、強い健苗を求めて、種籾から苗を作っています。種籾の段階から酒に仕上がるまで、全て自らの手で丁寧に育て上げる。まさに日本酒版のドメーヌのような酒蔵です。
基本に忠実に、妥協することなく、「酒造りは米作りから」の信念を実践しておられます。元がよくなければ、その後に何らかの影響がでてくる。
前述のように、根知谷はその恵まれた地形テロワールにより、酒米づくりに最適の条件が揃っています。根知谷の風土を想い、そこで生産する生産者の想いを味わっていただきたい。まさに、目の前にある田圃でとれたお米で造られたスローフード、ロハスの酒です。根知谷のテロワールを是非一度ご賞味ください。
秀逸なワインのような深い味わいと心地よく長い余韻をもった純米酒が醸しだされています。
但し、この箱庭のような根知谷での米の生産量は、明らかに物理的限界があります。「nechi」ブランドが近い将来、超限定数量の商品になる可能性は十分にあります。(そう言えば村祐も・・・)
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