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世の人々は人生の歩みの中で様々な出会いがある。物との出会い、人との出会い。良い出会いをした時、人は感動や感激をする。そして喜びに浸ることが出来る。
ジャズシンガーの阿川康子さんは10何前吟醸酒との出会いをし、新鮮なショックを受けたといいます。清らかな香り、すっきりした上品なほのかな甘さ、すっかり吟醸酒のとりこになり「まるで恋わずらいをした時のよう」と言う。
それからコンサートやツアー等の各地に出かけるたびに、幻の吟醸酒を求め、恋の遍歴を重ねている。吟醸酒の香りをかぎ、その酒を見たとき、造る人のポリシーがこちらに伝わってくるとも言う。
西洋の酒に例えてみれば吟醸酒の存在は、キールロワイヤルでありマティーニあるいはギムレットだとも言う。「食卓の序曲にこれほどふさわしいお酒はありません。」と言っております。
これは吟醸酒との出会いを語った話ですが、吟醸酒を口にいすると誰しも心なごむ。その安らいだ気持ちがやがて華やかな酔い心地、桃源郷へと広がっていくのであると思います。
さて、今回は本仕込み、もろ身の段階からお話したいと思います。麹やもとが出来上がり、初添・踊り・仲・留と順に段階的に仕込みが始まる。
最初の添仕込みは、仕込みタンクの中に酒母を入れ、蒸米と麹に水を加えて全量の約12%を仕込む。このときの温度は12℃が基準である。翌日は踊りと称して仕込みを休み、そのまま寝かせておく。この間に酵母に増殖が進む。3日目に中仕込みを行う。
蒸米、麹、水を加えて約25%仕込む。そのときの温度は約8〜9%である。そして4日目に最後の仕込みをする。残りの全量の蒸米、麹、水を入れる。温度は6〜7度である。
添、仲、留めのそれぞれの仕込みの比率と仕込み温度によって、品質に微妙な差が生まれるのです。杜氏が最も神経を使うときである。
糖化と醗酵の微妙なバランスを獲るのがモロミ管理のポイントで、最高級の吟醸酒は特に低音で醗酵させて雑味をださないようにします。
毎日0.3〜0.4℃と温度を高めながら、10℃前後で微妙なバランスをとって醗酵させます。吟醸酒は普通の酒と違って30日以上もかかります。その間、毎日もろ身の一部をサンプリングし、分析を繰り返し丹念に記録を取ります。日に何度も検査をし、モロミの状貌を観察します。
また、細心の注意を払って我が子を育てるように朝夕蔵の松尾神社に手をあわせ、モロミの顔を祈るような気持ちで見ていきます。
醗酵が終わりに近ずきモロミの搾りに入る時、杜氏はモロミの状貌やデーターを見ながら決断を下し搾りが始まります。
搾りは清酒とその粕を分離すること、これを上槽と言います。モロミで33日間の長い間、蔵人が心血を注いで醸成してきたモロミが醗酵し、上槽時期になりますと香味、状貌など念入りに観察を行う。
香りをかぎ、手でモロミの味をつかんで微妙な感触を確かめ、口に含んで味を見るこの時も長い経験と感が試される時であります。
吟醸酒は、原料の厳選に始まり、長い伝承の技法とゆっくりと時間をかけて醸し出されるまさに芸術性の高い商品と言えましょう。
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