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今頃になりますと何処の酒蔵でも新種の搾りが始まります。蔵の入り口に入りますと、新種の香りがプーンと心良く鼻をつく、酒蔵の中に入ると香りに酔うが如く何ともいえない気分になる。
新酒の搾りが始まりますと酒男の若い修たちは、活動が活発になり生き生きとしてきます。
「今年の出来具合はどうですか。」と聞けば誰もが笑顔になる。顔をほころばせながら「まあまあですね。」と上出来の容姿を話してくれる。
自分たちの苦労が報えられたことの嬉しさで、米の出来具合やら気温の変化等を丁寧に話してくれる。出来上がったときの喜びは又、格別なのだ。
さて、酒の味については甘口とか辛口とか一般的には誰でも区別するのですが、日本酒の甘口とか辛口の「区別」ほど曖昧なものは先づありません。
お酒の成分上、糖分が多ければ甘い、少なければ辛いことは一応の理屈ですが、酸やアルコールの観点からしますと酸が多いとたとえ糖分が多くとも辛く感じます。
これは、味蕾の甘味に対する感受性を酸が抑制するからであります。従って酸が少ないとたとえ糖分が少なくとも甘口になる訳です。
上手な表現としては旨口ともいい、甘口だと言っても詳しく区別すれば「極甘」「中甘」「うす甘」等いろいろあると思います。
しかし、その「区別」は日本酒と言うタイプの中での区別に過ぎません。葡萄酒やシェリー酒の様に甘味度に特別なタイプが設けられているのと違います。
「甘口清酒」「辛口清酒」などと銘打って区別して市販されると、食卓での用途、幅もまた楽しみも、今より倍加されると思います。甘口、辛口と言っても時代による大きな変化が考えられますね。
エキスと酸による大差がある為と食生活の変化による味への変還とでも申したらよいでしょうか。
日本酒の味に対する言葉の中に芳醇とか濃醇、また、最近は辛口淡麗とか申しますが、言葉の語源は良く分かりません。酒造りに携るもの達の間では五味と申し、甘、辛、酸、渋味、苦味と使い分けて判断します。
又、ごく味と言って濃い味については「コクがある」「膨らみがある」「幅がある」等と言い、いや味の面を表現する言葉では「くどい」「しつこい」「重い」「さばけが悪い」「雑味がある」等と申します。
原料米の精白度の悪い酒については「きたなに」「ざらっぽい」「がらが悪い」という場合もあります。
酒を男性的に表現する場合、「線が太くこくがあって男性的」「こしがある」「きめが荒い」「等と言い、反面、女性的なほめ言葉としては「きれい」「きめが細かい」「軽い」「上品」「ふくよかなふくらみがある」「柔らかい」「淡麗である」「味の整った美しさ」等があります。
押味、引込味については昔から「尻ピン」「尻はね」「跳ね上がる」とかいわれる味がありますが、これは日本酒を飲んだ後口にキュッと残る一種の後味で、総合的力強さを表す言葉でしょう。
引込味とか後味とかは古来、日本酒で珍重された味だと思います。酒の風格には生まれつきのものと後の育ちで出来るものとがあります。
すなわち醸造中に出来る様々な味や香り、風味、風格は生まれつきのもの。育ちで出来るものとは貯蔵熟成中に出来る適度な熟成と、味にまるみが出来る調和した味の事を言います。
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