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お酒の風格には生まれつきのものと後に育ちで出来るものとがあります。
味の基本的な骨格が生まれつきのものは醸造中に出来上がり、育ちでできるものとは貯蔵熟成中にできるものであります。「食の科学」「熟成を探る」等の一部を引用して紹介しましょう。
醸造については何回か申し上げましたので、熟成についてお話いたしましょう。
酒の育ちの上で一番大切なのは何と言っても熟成であります。しかし、この大切な熟成は現在の日本酒では比較的軽く見られております。
そう言うものの日本酒でも、ある期間の貯蔵熟成が絶対に必要な事は、消費の段階で新酒の荒い風味が嫌われることでも分かると思います。
適度に熟成した酒の良い性格は、味に「まるみ」があり「調和」し、アルコール香がなく「さばけ」がよいと言うような言葉で表されています。
「すべり」や喉越しが良く「味の切れ」が良く「舌ざわりの滑らか」などのベテランでなければ分からぬような「あかぬけ」のした酒の性格の多くは、貯蔵熟成の賜物であると思えば間違いありません。
このように、大切な酒の性格を造り出す貯蔵現象のメカニズムは、果たしてどうかと問われても現在の科学の段階では五里霧中の状態であるといわれます。
アルコールの慣れと、液の物理科学性との間の関係は多少分かってきましたが、日本酒はアルコールの他に数百あるいはそれ以上の物質を含んだ日本酒の複雑さを考えると、研究に手をつける勇気も出ない程だと酒博士の坂口勤一郎先生はよくおっしゃっておられました。
最近では、日本酒でも何年物と年代物が見かけられますが、清酒の熟成最適機関が9ヶ月〜12ヶ月とされているのに対し、ウイスキーやブランデーなどの蒸溜酒は5〜30年も熟成させるのは熟成によって香味が向上し、付加価値が高まるからでしょう。
清酒の熟成には、搾りたてから火入れまでの火入前熟成と火入後の貯蔵期間が約半年から1年の火入後熟成があります。火入前は、酵素反応が主体をなし、火入後の場合には化学反応からなる点が特徴的であります。
火入後、熟成につき物質の変化と言う点では清酒の味は、熟成すると「まるい」「穏やか」な味となると共に「厚み」「濃さ」が増してきます。
更に熟成が進むと「雑味」が出て味が汚くなる。この点、貯蔵管理など重要になってきます。
熟成と香気成分については、新酒は「麹ばな」「新酒香」を持っていて一般には余り好まれませんが、熟成に伴いこの香りは消え「熟成香」「老香」になり、なおいっそう熟成が進むと「老酒」と同じ香りになります。熟成に伴う香気成分の変化は以下の通りです。
1.新酒の主体であると考えられる酢酸イソアミルやイソアミルアルコールは徐々に減少する。 2.未熟臭と考えられるアセトアルデヒド、カプロンアルデヒド、イソバレルアルデヒド等は減少し、この現象が新酒香の消失に寄与している。
これ等は主に酵母に醗酵に由来するもので、麹に由来する「麹ばな」や「栗香」については本体が不明であり、熟成に伴う変化も解明されておりません。
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