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今年の冬は、新潟にも近頃にない雪が降りました。この雪によるほどほどの寒気と湿度は、酒造りには絶妙の恵み。どこの酒造元でも、素晴らしい出来ばえと胸を張っている。1月の6日が小寒ですが、この頃から標準を合わせ、最後のまぼろしの酒の造りに入る。
麹造りからモト造り、本仕込みと約50日余り2月下旬から3月初旬にかけてようやく搾りに入ります。この大吟醸酒は、何回か前にもお話申し上げましたが、杜氏、蔵人が精神潔済し、魂をそそぐまぼろしの酒です。
私共40〜50年の杜氏経験の中でいつも思う事は、造れば必ず良い酒が出来るとは限らない。どんな良いデータがあろうとも毎年が1年である事を肝に銘じ取り組むのです。
酒造りの中での信条は、自然体である事。天と地と人との和合がなければ、良い吟醸は出来ない事です。
これは微生物の本能的生き方の熟知と、それを支え管理する官能的世界があるからむしろ芸術的でさえあるのです。
吟醸酒の搾りに入りますと緊張の連続ですが、ふくよかな吟醸の香りが蔵内に漂い、槽口から流れ出る酒を含むとまろやかな味が喉を潤す。一瞬微笑が、そして造る事の喜びが長い苦労を忘れさせてくれます。
果物からフルーティーな香り得るのは容易だが、穀物からフルーティーな香り内容が醸し出されるのは日本酒のしかも吟醸酒ならではであり、これは世界の酒に類がありません。酒はわかり易いが奥が深いと言えるでしょう。
今の時期に出来る酒は、各メーカー自慢の酒。毎年催されております日本酒の味を競うコンテストに出品されます。
各地で行う新酒品評会、また、公的機関で継続して行う国税庁酒造試験場の主催する全国新酒鑑評会、各国税局や地方公共団体が主催する春秋2回の酒類鑑評会等がございます。
賞を受け取る事は、酒造メーカーにとっても杜氏にとっても何よりの名誉とされます。
日本酒に限らず、全ての酒類良し悪しの判定は、まず官能テストが基本になります。官能テストはその道の専門家が少なくとも15〜16名以上、実際に味わって評価する方法です。
品質を分析する化学テストもありますが、いくら正確な化学分析によっても日本酒の絶妙な味わいのきき分けは出来ません。香りや味の判定は人の感覚に頼るほかありません。
酒の官能テストをきき酒と言います。きき酒のポイントは、色、香、味の三点にだいたい絞られます。要するに目で色を見る、鼻で匂いをかぐ、舌で味を見るわけです。
香りは「上立ち香」と「含み香」を吟味し、特性として「ソフト」「華やかさ」「重厚み」に分けます。味は「濃淡」「甘辛」「熟度」を吟味し、特性として「きれい」「なめらか」「後味のしまり」など以上を総合して香味の調和、不調和を採点します。
日本酒の場合、一般的には「きき猪口」という磁製の茶碗に酒を注ぎますが、近頃の審査では茶褐色のアンバーグラスを使用し、色よりも香味のバランスを重視しております。
日本酒の愛好家が若い人たちにも増えて参りました。きき酒のコツくらいわきまえておくのもまた楽しみが倍増されると思います。
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