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日本酒は、長い伝統と歴史の中で育まれてきた文化遺産である。
「それぞれの国民は、民族特有の酒を持つ」という事は、その民族の歴史の古さと優れた酒文化を持つ事に通じるものであり、酒には民族文化の匂いが濃く感じられるものであります。
日本人が、他国に例を見ない独自の酒文化を完成させていった事は度々申し上げましたが、まず酒の造り方にしても、初めは大陸からの影響を受けたものでしたが、しばらくすると全く独立した酒造りを展開していきました。
大陸での麹造り糸状菌がリゾープス(くものすカビ)であるのを、日本人は麹カビに置きかえ、原料も大陸が麦や高染めであるものを日本人の主食である米に置きかえ、この国に合った酒造りを確立していった。
この事は、日本人の食生活が米中心である事と相まって、米、米麹の酒を一層この民族に密着させてきました。また、その後、酒を大切な嗜好食品として日本人の生活の中に定着させて来たのです。
さて、この日本の酒文化の伝統を立派に育て、改革し、今日にあるのは製造に携わる杜氏、蔵人達の長い経験や知識による「技の熟練」によって生み出され、また、次の時代への「技」の伝承によるものであることは過言ではありません。
今、この杜氏制度が継続者不足のため崩壊にあります。
杜氏制度は、ギルド(いわゆる職人徒弟制度)であるヨーロッパで中世に栄え、産業革命によって衰えた事は皆様ご承知の通りでありますが、日本酒業界にとっては誠に憂うべき問題であります。
この事は、早くから業界始め全国の杜氏組織等で、後継者育成の対策が強く叫ばれ訴え続けられてきましたが、改善しないまま今深刻な事態にあります。
基本的には、日本の経済成長産業革命が、農漁村の社会構造を変えてしまい、経済基盤が変わったからに外ならないのです。歴史的な「冬期の出稼ぎと酒造り」という互恵関係も崩れてしまったのです。この事は「3K」に代表される社会背景などで現時点では最善策は見出せないままです。
しかし、現在組織及び、就労者の意識は「酒造技術を売る」という技術者に変革し、個人の能力、力量に応じて就労先を選択できる段階にあり、又、企業も雇用改善により年間雇用態勢や若い労働者の定着を計るために、時間短縮など週休2日制へ向けて、作業工程の改善等に取り組んでいるようです。
ただ、ハードウェアーを駆使した合理化には限度があるのです。酒造りには伝統手法というだけでなく、生き物である微生物が相手なのです。ソフトの面で、杜氏の持つノーハウを如何に伝承していくかということが大きな課題であります。
今私共が取り組んでいる事は、日本酒の得性産地として新潟清酒の一層向上と継続者育成にあります。現在、各研究団体が横の連絡を密にし、一緒になって努力しております。
酒も、より品質を問われる昨今以上に「技」が問われる時代はなかった。ひと頃の地酒ブームは一過性ではなく、嗜好性豊かな酒が続々誕生し、酔いの酒から味わいの酒へと飲む方も造る方も変化しております。
「技を持つ後続者の育成こそ急務なのです。」
「究極の酒は、馥郁(いくふく)たるほのかな香りを秘め、いくつかの味を持ちつつその味を隠し舌のあたり柔らかくして乾してなほ口中に誘い込む障りなき酒であり、飲む人に深い感銘を与える。」
前試験場場長・廣井忠夫博士の言葉を紹介しました。今後も愛されていくべき新潟の酒の姿勢を示された一文です。
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