創業は奄美群島の日本復帰に先立つ昭和26年（1951年）、富田酒造場のある名瀬市は、奄美群島の拠点都市、南は太平洋、北は東シナ海に面しており、大島本島は外海離島として沖縄本島、佐渡島に次ぐ総面積を有し、その内の約８１％を山林が占める。気候は亜熱帯海洋性に属し、四季を通じてハイビスカスが咲き乱れ、海岸線にはサンゴ礁、山間部には、国の特別天然記念物に指定される奄美固有の動植物が数多く生息し、巨大なヒカゲヘゴなど亜熱帯植物が自生する原生林「金作原（キンサクバル）」が有名です。．．．もっと見る

創業は奄美群島の日本復帰に先立つ昭和26年（1951年）、富田酒造場のある名瀬市は、奄美群島の拠点都市、南は太平洋、北は東シナ海に面しており、大島本島は外海離島として沖縄本島、佐渡島に次ぐ総面積を有し、その内の約８１％を山林が占める。気候は亜熱帯海洋性に属し、四季を通じてハイビスカスが咲き乱れ、海岸線にはサンゴ礁、山間部には、国の特別天然記念物に指定される奄美固有の動植物が数多く生息し、巨大なヒカゲヘゴなど亜熱帯植物が自生する原生林「金作原（キンサクバル）」が有名です。 酒蔵は、かつてオランダの館があった事から蘭館山（らんかん）と名付けられた山の麓、江戸末期に英国人技師を招いて建設した白糖製造工場跡地にあります。富田酒造場は、年間約500石(約90KL)ほどの極めて少ない生産量で、奄美黒糖焼酎の蔵としては最も小さく、外観も焼酎工房といった雰囲気の佇まいです。 しかし、その黒糖焼酎は、代表銘柄である「龍宮」を始め、「かめ仕込」「まーらん舟」「らんかん」等、いずれも入手困難な銘柄として知られており、独特の個性をもつその香味酒質に魅了される酒好き、焼酎ファンは後を絶ちません。 龍宮の仕込みは、奄美大島でも珍しい一次・二次仕込みともに甕仕込み。仕込み水には、原生林「金作原（キンサクバル）」を源流とするサッパリとした軟水を使用し、麹は国産米を用いて黒麹仕込みにこだわっています。そして、ホーロータンクによる大型の造りが普及した現在でも、全行程を独自の伝承技術である甕仕込みによって発酵。蔵付き酵母の秘そむ32個の大甕で1週間酒母造りをし、溶かした黒糖を大甕で更に二週間もろみ造り。熟成し旨味を増した「もろみ」を蒸留し、39%〜44%の原酒を手入れしながら貯蔵しています。 「うちの酒の最大の特徴は、この甕にある。同じ日の同じ仕込でも、甕によってそれぞれ違う酒が出来る。」とは、以前蔵を訪問させていただいた時に富田さんから聞いた言葉ですが、40あるそれぞれの甕には異なる香りがあります。それは、それぞれの甕の歴史であり、個性であり、その甕ごとの個性を尊重して仕込むことにより、更に複雑な奥行きのある酒が生まれるといいます。 また、黒糖焼酎の黒麹仕込みにおいて、富田酒造場は先駆者的な存在としても知られています。黒麹を用いて仕込むことにより、甕仕込み特有のしっかりとした味にキレを加え、強いクエン酸で甕の殺菌にも力を発揮するためです。 本格焼酎にかつてない程のスポットが浴びた現在も、時代に流されず、富田酒造場では手作業の良さを生かして酒を仕込みます。数年前に、コンピューター制御による完全自動製麹機を導入しましたが、物足りなさを感じ、人の手を入れることが出来るよう半自動に改良しました。熱気がこもる麹室で、醪の状態を確認しながら、丁寧な手作業による優しく温もりのある焼酎造りを経験しているからこそ、酒造りにとって最も重要な麹造りは、自分の手で愛情を注ぎながら造りたいという想いは強いのかもしれません。