創業昭和55年（1980年）、栃木県足利市の山の麓にあるココ・ファーム・ワイナリーは、指定障害者支援施設「こころみ学園（社会福祉法人こころみる会運営）」の創設者・川田昇氏が、1950年代に特殊学級の中学生たちとともに、山の南西向き急斜面（平均斜度38度）に葡萄畑を開墾したことに始まります。当時、園生たちの社会的自立支援のため、この葡萄畑でワインをつくることを考えましたが、社会福祉法人には葡萄をワインにするための果実酒製造免許が下付されなかったため、それに賛同する父兄たちの出資によってワイナリーが設立されました。．．．もっと見る

創業昭和55年（1980年）、栃木県足利市の山の麓にあるココ・ファーム・ワイナリーは、指定障害者支援施設「こころみ学園（社会福祉法人こころみる会運営）」の創設者・川田昇氏が、園生たちの社会的自立支援のため、1950年代に特殊学級の中学生たちとともに、山の南西向き急斜面（平均斜度38度）に葡萄畑を開墾したことに始まります。当時、園生たちの社会的自立支援のため、この葡萄畑でワインをつくることを考えましたが、社会福祉法人には葡萄をワインにするための果実酒製造免許が下付されなかったため、それに賛同する父兄たちの出資によってワイナリーが設立されました。 ココ・ファーム・ワイナリーの自家製ココワインは、こころみ学園や特別契約栽培農家の畑で生まれた日本のブドウが原料です。こころみ学園の葡萄畑をはじめとする、栃木県南部の足利市と佐野市に位置する5つの自家畑では、化学肥料や除草剤は一切使わず、マスカット・ベーリーＡ、リースリング・リオン、小公子などの日本固有の葡萄品種や世界的な葡萄品種を栽培しています。いずれも北関東の気候風土にあった適地適品種のワイン用葡萄品種です。 山の南西斜面を開墾した葡萄畑は、開墾以来50数年間、除草剤が撒かれたことがありません。礫（こいし）混じりの20〜100�pある壌土の下には、根が入り込むことが出来る砕屑岩類、チャート、玄武岩、メランジなどで構成された頁岩からできています。 これらの岩石は、ジュラ紀に海溝の底に溜まった岩石が地殻変動により押し上げられて形成されたもので、ジュラ紀の岩と岩の間にしっかり根を張る葡萄の根は、こころみ学園の自家畑の特徴です。このような特殊な母岩を持つ畑に育った葡萄でできるワインには、他のエリアにはない奥行きを感じることができます。 醸造場では、葡萄本来の自然の風味を生かした上質なワインを造るため、果皮等についた天然の野生酵母や野生乳酸菌を中心に醗酵させています。目に見えない微生物の力や「こんなワインになりたい」という葡萄の声に耳を澄ませ、元気な土壌から生まれる葡萄の潜在力を最大限に引き出し、その持ち味を生かすことを大切にしています。ワイン造りは葡萄畑で行われると考えるココ・ファーム・ワイナリーにとって、野生酵母による醗酵は自然の流れでした。現在、スパークリングのビン内二次醗酵のための酵母を除いて、殆ど全てのワインは野生酵母での醗酵によるものです。 ワイン醸造においては、1989年にコンサルティング醸造家としてアメリカをはじめ世界中で活躍したワイン醸造家「ブルース・ガットラブ氏」を指導者に招き、ワイン造りの基礎から徹底して品質を飛躍的に向上させてきました。 そして、ココ・ファームの名はやがて世に広まっていく。決定的な出来事は、2000年の九州・沖縄サミットの晩餐会にココ・ファームのスパークリングワイン｢1996NOVO｣が採用されたこと。続いて2008年の北海道洞爺湖サミット、2016年の広島G7外相会合でも海外の要人たちをもてなす国産ワインとして振る舞われ、その存在が広く注目されました。 ワイン造りは、葡萄畑に太陽や土壌や雨風などの気候風土、野生酵母や野生乳酸菌などの微生物、草花や虫や鳥や人間という生物が共生する命が沸き立つような仕事です。まさに自然の中での労働と暮らしから、その恵みであるワインを享受していくこと。栃木県足利市といういわゆるワインの産地でない土地にありながら、気候風土への理解と敬意の念を抱き、自然に寄り添って、人と人との繋がりから生まれる素晴らしいワインが醸造されています。